習作2
間隙
作:会津里花
3月31日。
今日限りで楽園を追放される、私/僕。
なんで父さんにもっとはっきり言わなかったんだろう。「僕は文学部に行きたいんだ」って。
明日から、私/僕の学籍は「法学部」の大学生。本当なら、人生の新しいステージに立つのだから、もっと喜ぶべきなんだろうな。
そんなことを思いながら、S公園に来ている私/僕。今日は自分を一人にしてやりたかった。
遊んでいる子供たちを見ていると、「もう一度小さい頃からやり直したい」なんて思えてきて、なんだかため息が出てしまう。
できれば、女の子としてやり直したかったな…。女の子なら、こんなにスポイルされないで済んだだろう…
ぼんやりしている私/僕の視界に、ちょっと太めのおじさんが近づいてくる姿が映った。
初め、私/僕はこのおじさんが自分に用があるのだとは思わなかった。
でも、もう目の前にいるから私/僕に用があるんだろうな。
「ねえ、キミ、ホ○って知ってる?」
え? 「ホ○」のところがよく聞こえなかったぞ?
「…」
唖然として見上げる私/僕の顔を覗き込むようにして、おじさんはもう一度言った。
「キミ、ホモって知ってる?」
私/僕は、「名前は知ってるけど…」と答えるしかなかった。顔が熱くなってくるのがわかる。
「私の家がすぐそこなんだけど、何か飲み物でも飲んでいかない?」
…私/僕は、なぜか素直に頷いていた。
自分が直前に考えていたことが、見透かされていたんだ、と思った。
そう思うと、恥ずかしいのと同時に、なんだかクラクラするような甘い気持ちになりそうで、私/僕はもっと真っ赤になってしまった。
でも、外の人とそういう関係になるのは初めてだ。
これが、私/僕の楽園追放の第1歩なんだな。
穏やかな陽射しの中、上機嫌そうなおじさんの後ろを歩きながら、私/僕は木陰を踏むたびに、1歩ずつ自分が闇に向かって踏み込んでいくのを感じていた。
(1999)